73 お父さん

訳あって父親が一人暮らし部屋に来てくれました。
会ったのは3週間ぶりくらい。そこまで時間は空いてないけれど、やっぱり会えると嬉しいもの。
持ってきてくれた荷物には、母親が詰めてくれた食料品もあって嬉しくなった。パプリカだったけど。大量の。赤と黄色の。まあ食べるけどさ。


用事を終わらせてスーパーで買い物。いつもは買えない重いものとか買いなよって言ってくれて。
カゴに液体ばっか放り込んでレジに並んだ。前には2人の小さい子供を連れたお父さんがいた。
その子供ちゃんがね、すっっっごく落ち着きがない。仕方ない年齢だろうなというのは外見で想像できたけど、走り回って寝転んで大騒ぎ。お父さんも大変だなあと父親とか一生に見てた。
前のお父さんの商品がレジを通って合計金額が表示される。お父さん財布を漁る。店員さんに言う。「足りなかったんで、取り置きして貰ってもいいですか?」
そのレジをやってた兄ちゃんも手際が良くはなく、それまでかなりの時間待ってたの。で、そこでそれよ。できるのかどうか詳しい人を呼んで何か話して……ってしてたらより時間がかかる。
「少々お待ちください」。店員さんが父親に言った。
いつもは穏便な父親が珍しく「はよして」と。そりゃそうよ、こっちに待たされる理由なんてないんだもの。これにはレジの兄ちゃんもタジタジになっちゃって。前のお父さんも、軽く頭を下げながら「すみません」とね。
「すみません」と謝って、次の瞬間には暴れ回る子供をなだめに行く。イラついてきたのか、人が大勢いる店内に響く大きな声で子供の名前を呼ぶ。
ああ、なんだか残念だなあ。
なんとなくそう思った。客としても、父親としても、あんまりなんじゃないか。
レジをやっと終えて車に向かう途中、衝動的に「ちょっとあんまりだったよねえ、あのお父さん」とか、「レジの人の対応も良くないね」とか、父親に話したくなった。
けれど、辞めた。
「はよして」と強い口調で言ったけれど、話を掘り返そうとする姿勢は父親には感じられなかったから。
そうなの、私のお父さんってかっこいいのよね。
そういう話の落とし所にしたら、自分の中で待たされたこととかあのお父さんのこととかどうでもよくなっちゃった。
私は私のお父さんがすきよ。

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