ほんとうのこと

ずっと言わなかったけれど
ずっと見ないふりをしていたけれど
ほんとうのことを言うね

私は昔
君に恋をしそうになったことがある

もっと一緒にいたいな、と
君がほしい、と
ほんとうに自然に、ふと、思った夜がある
それを恋と呼ぶかどうか今は恋と呼ぶけれど
でもとにかく、そんな夜が確かにあった

けれど私にはあの子がいて
あの子のために生きていて
だからごめんなさい
その夜のことを深い湖に沈めました
波の立たない深い場所に置いてけぼりにした
「私にはあの子がいるから」

ネクライトーキー
君が教えてくれたバンド
池下の小規模なライブハウス、その最前列中央
急いで交換したカップのなっちゃんに五百円玉を沈めながら
私その人たちの曲をひとつも知らないまま
ただ君が聞くバンドだというそれだけを握りしめながら
聞いたの
その五人の音楽を
四月のとても晴れた日の暮
実家という檻に帰る予定を控えて

小さな体の絶叫が、君の好きな音楽が
ぼやけた歌詞の不快感を飛び越えた
ああ私はきっと好きになれる
一つ一つ聞いていこうと思った
知らない人を知っていこうと思った
まだ余熱で暖かい君の好きな人たちの音楽と
あの子のことで沢山泣いた部屋の現実の
その間でたゆたいながら

晩御飯の準備を手伝うはずだった
準備を始める前に一眠りしようと布団に潜ったのがダメだった
歯を食いしばっているその痛みで眠りから覚めて
頭がはっきりしないままやけに沁みてるらしい曲を聴いたよ
あ、わたし、この曲聴いたことがある
昨日聞いたんだ!
あのステージから受け取ってたんだ
雑多になっていたステージから受け取ったキラメキが解けた

こんなわかりやすいタイトルの曲を沁みるとか言って共有されても困る、って一秒でも思ってごめんなさい

違う
私、昔、君のこと好きになりたかったんだ
好きになりたかったのに鎖が
その理想と願いでできた鎖が
太く根を張る木から伸びる鎖で
私、見ないふり、しちゃったんだって
見ないふりするしかなかったんだって!
あの夜の私を見つけたの
湖の奥底のあの私を

がっかりされたくない
がっかりする身分じゃなかったって
思い出したわけ
良くも悪くもないなんて判定するような
そんな立場じゃないわけ

私にはもう何もない
あの鎖は錆びてしまった
さびた鎖に縋るほど私はバカじゃないから

だから、
がっかりされたくないよ
がっかりしたくないよ
あの夜の自分を救いにいく
もう好きになってもいいんだよって

贅沢だよ君は
君の好きな音楽で
今の君に沁みる曲で
大粒の涙ぽろぽろ流したってこと
親に気付かれないように泣いたってこと
ちゃんと知れるんだから
君はぜいたく

この涙をなかったことにしないために
つらつらとこの文を書きました

ずっと言わなかったけれど
ずっと見ないふりをしていたけれど
ほんとうのことを言うね

私は昔
君に恋をしたかったの

もう逃げない
もう見ないふりしないから
こう決めても時間かかるかもしんないけど
焦らずに手繋いでいてほしい

だいじょうぶ
大丈夫だから

君しか読者がいないブログの一記事
これを最初のラブレターとします

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