「ちーちゃんはちょっと足りない」

友人から教えてもらった漫画「ちーちゃんはちょっと足りない」を読んだ。

なんだろう、この、じんわりと広がるのこの湿った暗闇は。



ナツ
ちーちゃん
ってカーストがあると思う。
特に目立つのは旭とちーちゃんの描き分けで、「家」も「成績」も「恋人」も「身体」も旭の方が「良い」として描かれている。全然違う環境にいるのに、ふたりは同じグループとして一緒に帰る。ふつう、友達関係というのは同じくらいのカーストの人どおしでまとまるものなのに。だけど、ちーちゃんはそんな不思議に気付かない。ちーちゃんはちょっと足りないから。仲良くしてくれるだけでにこにこ。逆に、旭はなんでちーちゃんと仲良くするんだろうと考えると、怖い。だってちーちゃんとナツは明らかに下だってわかってるんだもんね、旭は。負けることないんだもんね。(旭自身がそのヒエラルキーに気付いているかどうかは分からないけれど)

まぁでも、そんな上と下の間のポジションがナツ。良いように言えば2人の接着剤だし、言葉を選ばないなら一番目立たない。本作の主人公はちーちゃんではなくナツなんだ。あー、誰の何にもなれないな、なる努力もできないな、そのくせ嫉妬とか悪い感情は沢山持ってるな、なんも出来ないクズ、って思ってるナツ。

誰の心にもナツはいるんじゃないかな、と思う。思い当たるもの。私の中のナツが。
人からの善意を冷たく笑ったり、ぐーたらする時間はあるのに直前になって焦って他のものに責任転嫁したり。なんかまあ、色々。

ちーちゃんはナツよりできないけど、できないことが強みにもなっている。だから、色々な人が助けてくれたり大目に見てくれたりする。そうやって足りないけどちーちゃんは生きていける。上手いのだ。世渡り上手。決して大金持ちになったりいい会社に入ってバリバリ働くとかできないだろうけれど、ちーちゃんなりの幸せを見つけられるだろうな、と思える。
けど、ナツはどうだろう。とことんできないわけでも飛び抜けてできる訳でもない。善人であらねばという気持ちだけが先走るだけで、善人であるための行動は伴わない。ウソは隠し通せば罪じゃない。泣いて謝ることはしなくていいけれど、本当はそれが幸いでは無いと分かってる。
どろどろ。章ページに輪郭線のないナツがいたけれど、すごく的確だと思った。ナツには肯定できるナツらしさというものがないから。今にも溶けだして背景と同化してしまいそうなのを、必死に取り繕って留めている。

最終話最終ページは一話最終ページと同じ構図だけど色々違う。3人の輪から旭が消えた。奥のフェンスが高くなってる。空車庫は無くなって車が沢山。コマに大写しになるのはちーちゃんじゃ無くてナツ。
いっぱいいっぱいになったナツの心は、ちーちゃんの無邪気な笑顔だけにつなぎ止められている。だけどきっとその事にちーちゃんは気付けない。いつかナツを置いてどこかへ行ってしまう。作中ではちーちゃんは帰ってきたけれど、それは「今じゃなかった」だけの事。

「未来がせまい」
ってナツのセリフが残る。


んあ〜〜〜、色々書いたけど結局「上手い」としか言えない……。
じわじわとタイトルが効いてくるのも良い。ちーちゃんは確かにちょっと足りないんだけど、ナツは足りてるのに足りなくしてるんだよな。そう。だってお菓子買えてるしテレビやクーラーのリモコンもある。お金の面ではちーちゃん家よりも余裕があるはずなんだから、ちーちゃんみたいに貯金しさえすればリボンなんか盗んだお金じゃなくても買えたはずなのに。

良い漫画です……。

(ひとつ追記するなら、読みながら舞台「御手洗さん」を思い出しました。「こいつと付き合っている間は、まだ私は大丈夫なんだって思える」ってやつ。下には下がいる、を見ることで安心感を得ようとするアレね)

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