リリーのすべて

【あらすじ】

2015年イギリス,ドイツ,アメリカ映画。世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベがモデルとなった作品。1900年初頭のデンマークを舞台に、風景画家であるアイナー・ヴェイナーが夫婦の絆に揺れながら、リリー・エルベという女性になっていく様が描かれ、数々の映画賞を受賞した。



世界初の性別適合手術を受けた人の話。


私はフィクションだと思って最後まで見たのだけど、本当はノンフィクションで実在したらしい(脚色はあるようだが)。



1920年代当時では今で言うところのLGBTの人々は精神異常者とされていた。

そのため、医師による無茶な治療や周囲からの迫害も当たり前。それを悪いとも思っていない。


そんな中でもリリーを支え続けるゲルダの心の強さに打たれた。

ゲルダだって苦しいはずなのに。
「男」だと思って愛していた人が、男ではなくなっていく。
自ら自分が愛したアイナーのじんかくを消していく。否定していく。


初めの頃はリリーになるのはやめてと言うけれど、きっと段々アイナーであってもリリーであっても同じように愛せるようになったんだと思う。


アイナーの頃に交した口付け。
リリーと交した口付け。
同じ唇。
変わったあなた。
変わるべき私。


ゲルダはいつだって、変わっていくアイナーに落胆して別の男を作って出て行ってしまえた。


のに。


アイナーが育った場所に舞うリリーのスカーフ。

まるでのびのびと自分を表現するかのよう。


リリーは真に望んだ体で、真に望んだ生き方を出来ずにこの世を去ってしまった。


しかし、リリーの書いた日記はその後のトランスジェンダーの理解のために大きく貢献したのだそう。


リリーにとって本望だろうか?






「壁」が重要な演出が多くあったように思う。


2人の家の扉は多くの場合開けっ放し。
2人の心に隔たりがないように。


しかし中盤、リリーが出てくるようになると、リリーが扉を閉めたりするところがある。
心に壁ができる。


医者の部屋にゲルダが入れて貰えず扉に拒まれるのも重要だろう。医者が扉を閉めた。医者はその当時の「常識」のメタファー。
常識が2人を阻む。


リリーが一回目の手術を終えたあとの、2人のベッドルーム。シルクのガーデンが二人の間に引かれている。アイナーだった頃にはなかったものだ。
2人は意図的に自分たちを分けた。


そして、リリーが手術に挑み、危ない状況にあるとき。ゲルダは扉を開けて病室に入り、リリーの手を握る。
壁を超えて手を握る。




リリーは性別を越境しようとした人。


ゲルダは愛を越境した人。


そう思った。





心が間違っていたんじゃない。
体が間違っていたんだ。
僕は女なんだと思います。




私のこの映画で1番印象になったのはこのシーンのゲルダの表情。


実在のゲルダは、リリーの亡き後もリリーの絵を描き続けたんだそう。ペンネームにはアイナーと結婚していたという痕跡を残しながら。


愛、だと思う。


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