ウテナの純潔

(はてなブログからの転載です。一部修正あり)


天上ウテナと『性』

ウテナが色っぽくないのは狙ったところで、セクシーでないというセクシュアリティ。イノセンスな人がそういう世界に巻き込まれている、というセクシュアルさが出るんじゃないかなって。
(BSアニメ夜話/劇場版 少女革命ウテナ〜アドゥレセンス黙示録)
 
『男の子になりたい女の子』ではなく『王子様に憧れる女の子』なウテナ。
この点がベルばらの男装なんかとウテナの男装を分ける点ですよね。何か慣習とか「そうしなきゃいけない」からやっている訳ではなくて、ただ「王子様に憧れている」から男装するっていう。
 
「男装の麗人」という点では樹璃さんとの共通点もあります。
ただ樹璃さんの男装は、男と女でなされる王子様お姫様関係の皮肉な否定だと思っています。樹璃と枝織だからダメなんじゃない、女と女だからいけないんだ、っていう……。
というか男装の定義ってなんなんでしょうね。ウテナは明らかに男装だけど、初見時は樹璃さんが男装しているとは思わなかったです。ただ生徒会の服を着てるんだなーと。笑
 

『少女革命ウテナ』という世界は、人々は王子様かお姫様か魔女としてしか生きていけない構造になっています。

だから、みんな「女」もしくは「男」として誰かしらに恋をしているし、誰かを欲している。
 
しかし異質な存在がいるのです。ウテナです。
ウテナの思い出の中の王子様を思う気持ちって、とても純粋で半ば妄想とでも言っていいくらいに儚い。そこには性愛なんて存在しないように感じます。
まだ大人のイロイロを知らないうちの、ただ純粋な恋心。子どもの恋愛観の中での気持ち。
 

暁生をはじめ、アンシーや冬芽などの作中では『大人』として描かれる(大人に近い)人物たちは、皆恋愛には体の関係もついてまわるという振る舞いをしている。

 
明らかにウテナの王子様への気持ちと、『大人』たちの恋愛は違うわけです。そしてそれがウテナの強さの一つでもあると。
 
 

お年頃から考えて

まあでもしかし、天上ウテナ14歳、そういうことに関心が無いわけではなかろうと。
「健全な男子にしか興味無い」ウテナさまでも、健全に知識はあるだろうと、そういうことです。
 

アイメイトボイスカセットなるものが存在していて、(実はニコニコに上がってたり)そこでウテナさま、どうやらそういったことに関する知識があるような素振りをしているんですよ。「誤解されるようなこと言うなよな~!」非常にかわいい。

 

男と女は恋愛関係になるとセックスをする。

その認識はウテナの中にもしっかりあるようで。しかし自分の記憶の中の王子様とそれとは繋がらない。
 
30話『裸足の少女』で、ウテナは「僕が好きなのは王子様だぞ……」と自分に言い聞かせているのですが、やはり幻のような記憶の中の王子様と生身の暁生という男を比較するには無理があるわけで。
だって王子様は記憶の中にしか居ないんだもん。どれだけ触れたいとセックスしたいと思ったってしょうがないじゃないですか。
ウテナが王子様とそういったことを考えないのは納得出来ることですね。
 
 

33話「夜を走る王子」

ネット上で「トラウマ回」と名高いお話。ウテナのセクシュアルな面を取り上げる際には欠かせない回でもあります。
 
「ウテナ様、お願いがあるんですが」
「何?」
「このバラを、今夜お兄様に届けてもらえませんか?」
「暁生さんに?いいけど?」
「では…お願いします」
(少女革命ウテナ第32話『踊る彼女たちの恋』予告)
 
32話の予告でアンシーが暁生に薔薇を届けるよう頼むことから始まる事件。この時のアンシーの気持ちを考えるとまた辛いのですが今回は置いておいて。
 
この話もまた、今はアニメーション監督として活躍されている細田守さん(クレジット上は橋本カツヨ)が絵コンテを担当されています。構成がすごい(小物感)。
いつものようにハイウェイを走らせる暁生と、影絵少女たちのラジオ番組、過去の総集映像、ホテルでくつろぐウテナ。この要素を行ったり来たりしながら、暁生の視点で物事が明かされていくのです。
 
この話、私は嫌いです。ウテナの為に必要だったんだと言う人もいますが、私はそうは思えません。暁生が憎いし、そう描いたビーバパスも許せない。
(ウテナというアニメは受け手によって感じ方に違いが出るアニメですから、別意見を否定している訳ではありません。私はこう思った、という主張はどんな意見であれ正解です)
 
暁生に薔薇を届けに行って、ついでに遊園地デートして、遊園地が見えるホテルで夜を迎える。「永遠ってなんですか」と問いながらウテナはその処女を捨てる。ハイウェイを走る風を受けながらのモノローグ。「こんなつもりじゃなかったのに」。
 

「永遠とはなにか」と問うウテナに、暁生は「それはセックスである」と答えた暁生。

記憶の中の王子様は永遠ではない事を示しつつ、今君を抱いている私は永遠だと示すという高等テクニック。
ウテナをずっと支えてきたのは記憶の中の王子様でした。彼女の強さはそのたった一つの約束を迷いなく信じていたこと。
それを覆そうとする暁生。ウテナの気高さが邪魔で憎くて羨ましいが故に、奪ってしまおうと。その手段がセックスだと。
 
逆に言えば、ウテナの純潔を汚さなければ暁生に勝ち目などなかったとも言えます。潔くないかっこよくもない元王子様の悪あがき。大人ってそんなもんかしら。
 
ともかく、この33話でウテナの純潔は汚されました。
フィアンセがいる男に初めてを捧げてしまった。もういいやって、これが普通なんだって、このあとの話のウテナはどこか投げやりに暁生と接しているように私には見えてしまうのです。幸せそうじゃない。辛いです、見ていて。
 
 

そして夜の扉が開く

第36話。ついに暁生とアンシーの関係をウテナが知ってしまう。
 
アンシーはウテナと同い年ですが、格段に大人です。当然、アンシーは暁生と体の関係があるし、それをずっと隠すスペックも持っていた。夜にいなくなるのは暁生さんと寝ていたからなのか!こいつずっと裏切ってやがった!
 
でもね、これ、もしウテナが33話を迎えずにアンシーと暁生の関係を知ったとしたら、また話は変わってきていたと思う。
体で結ぶ関係を持つ者と持たない者。きっと人間関係を見る視線は違うでしょう。
きっと33話を迎えずに知ってしまったとしたら、2人は最後の決闘に挑むこともなかっただろう、と私は思います。
 
(冷静に考えて1人の大人の男に抱かれた中学生2人っていう構図がヤバすぎる……)


私にはアンシーが暁生との関係を見せつけたように見えたんですよね。初見の時。
一糸まとわないアンシーは真っ直ぐにウテナに視線を送っていた。
アンシーからの挑戦、挑発。あるいはこれ以上ウテナが踏み込まないようにするための捨て身のテロ。
 
37話『世界を革命する者』で、ウテナは冗談を言います。
それまで、冗談は大人が嗜むものでした。(31話でアンシーが冗談を言うシーンがありますね)。
それをウテナが言ってしまう。ウテナは大人になってしまったんですね。
 
私が考えるに、その子供から大人への切り替わりのきっかけは、やはり33話なんです。
ウテナは処女を失った。けれど本当に大きいのはそっちじゃなくて、ウテナが大人にされてしまったことが大きいのかなと思います。
 
 

おおきなひと。

まとめに入るのですが、こうして改めて考えると『少女革命ウテナ』という物語は大人と子どもという尺度が多用されているのだなと感じます。
 
性的なことは大人の代名詞です。酒とタバコと車に並んで、子供には遠い存在。
 
言い切ってしまうと、33話で暁生がウテナを抱いたのってもうレイプと取っていいと思ってるんですよ。
ウテナも合意した上だった?どうだろう。書かれていないから、分かりません。しかしウテナは「こんなつもりじゃなかったのに」と言ってるんですよ。
 
考えれば考えるほど暁生が小物に見えてくる。そんなことでしか王子様で居られないなんて無様だ。無様だということを分かりながらも、王子様という幻想にしがみつくことを辞められない。
 
 
今回はこれで終わり。
なれない部分もありましたが、最後までお付き合いありがとうございました!


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